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反復練習は本当に必要?動作改善と「正しいフォーム」を運動学習から考える

「正しいフォームを何度も繰り返せば、身体がその動きを覚える」

トレーニングやスポーツでは、このように考えられることが少なくありません。

スクワットなら、毎回同じ足幅、同じ膝の向き、同じ上体の角度で動く。

ゴルフなら、同じスイングを何度も繰り返す。

野球なら、同じ投球フォームを反復する。

もちろん、運動を上達させるために反復練習が必要な場面はあります。

しかし、ここで一つ疑問があります。

人間は、そもそも毎回まったく同じように動いているのでしょうか?

近年スポーツの現場では「反復練習」という考え方そのものに大きなパラダイムシフトが起きています。

今回は、ベルンシュタインの自由度問題や、近年注目されているエコロジカル・ダイナミクス、Constraints-Led Approach(制約主導アプローチ)、Differential Learningなどをもとに、

反復練習は本当に必要なのか

そして、

動作を改善するためには、どんな練習すればよいのか

について考えていきます。


人間は毎回”まったく同じ”ようには動けない

例えば、スクワットを10回行ったとします。

見た目には、10回ともほとんど同じフォームに見えるかもしれません。

しかし細かく測定すると、

  • 股関節の角度
  • 膝の角度
  • 足関節の動き
  • 足裏にかかる圧力
  • 筋肉が力を発揮するタイミング
  • 身体の重心
  • 動作速度

などには、毎回わずかな違いがあります。

これは必ずしも「フォームが安定していない」という意味ではありません。

人間の身体には多くの関節や筋肉があり、一つの目的を達成するための方法が一つだけではないからです。

例えば、

床に置いてある物を拾う

という単純な課題を考えてみましょう。

膝を大きく曲げても拾えます。

股関節を大きく曲げても拾えます。

足幅を広げることもできます。

少し身体を捻ることもできます。

同じ「物を拾う」という結果に対して、身体にはさまざまな方法が存在します。

この人間の身体が持つ多数の選択肢を考えるうえで重要になるのが、ベルンシュタインの研究です。


ベルンシュタインの「自由度問題」とは?

ニコライ・ベルンシュタインは、人間の運動制御を考えるうえで非常に重要な研究者の一人です。

人間には、多数の関節や筋肉があります。

一つの動作を行うだけでも、それらをさまざまな組み合わせで動かすことができます。

では、

これほど多くの動き方がある身体を、私たちはどのように協調させて一つの動作として成立させているのでしょうか。

これが、ベルンシュタインの研究と関連して広く知られる「自由度問題」です。

「コップを掴むだけでも、手首や指の多数の関節を組み合わせれば非常に多くの運動パターンが存在します」

手首の角度は、何度なのか?

どの指を、どのような角度で曲げてコップを掴むのか。

それらはコップを掴むたびに変化するはずです。

全く同じ掴み方をするということは二度と起こりえないのではないでしょうか?

しかしながら無数に存在する「コップを掴む」という運動パターンの中から私たちは常に”一つ”のパターンを選択している訳です。

ではその選択を左右する要素とはいったい何なのでしょうか?

その選択は、身体の中だけで決まっているわけではありません。

そのときの身体の状態(個体)、置かれている環境、そして「何を達成したいのか」という**課題(タスク)**が互いに影響し合うことで、その場に適した運動パターンが生まれると考えられます。

例えば同じコップを掴む動作でも、コップの大きさや重さ、置かれている位置、自分の姿勢、疲労の程度などが変われば、選択される動きも変わります。

つまり私たちは、あらかじめ決められた一つの「正しい動き」を毎回再生しているのではなく、そのときの身体・環境・課題に応じて、目的を達成できる動きをその都度つくり出していると捉えることができます。

この考え方を非常に分かりやすく示しているのが、ベルンシュタインによる熟練した鍛冶職人のハンマー動作の研究です。


ベルンシュタインの鍛冶職人のハンマー研究

ベルンシュタインの研究を説明するときによく紹介されるのが、熟練した鍛冶職人のハンマー動作です。

ベルンシュタインは、熟練した作業者が繰り返しハンマーを振る際の動きを分析しました。

興味深いのは、

熟練者であっても、身体の各関節が毎回まったく同じ軌道を通っていたわけではない

という点です。

肩、肘、手首などの動きには、試行ごとの変動があります。

ところが、それらが組み合わさった結果として、

作業の目的に直接関係するハンマーの動きは比較的安定していました。

つまり熟練した職人は、

「身体のすべての部分を毎回まったく同じように動かす」

ことで正確な仕事をしていたわけではないと考えられます。

身体の各部分にはある程度の変動がありながら、

重要な結果は安定している。

ここには、人間の運動を考えるうえで非常に重要なヒントがあります。

ベルンシュタインの鍛冶職人のハンマー研究を示す模式図。肩・肘・手首の動きには変動がある一方、ハンマー先端の軌道と打撃点は比較的安定していることを示している。
ベルンシュタインによる熟練した鍛冶職人のハンマー動作研究をもとにA.P.T.Lが作成した模式図。身体各部の動きには試行ごとの変動がある一方、課題にとって重要なハンマーの打撃結果は比較的安定している。

「反復なき反復」とは?

ベルンシュタインの考えを表す言葉として有名なのが、

Repetition without repetition

です。

日本語では「反復なき反復」と訳されることがあります。

言葉だけを見ると、

「同じことを繰り返す必要はない」

という意味に感じるかもしれません。

しかし、そういう意味ではありません。

例えば鍛冶職人は、何度もハンマーを振っています。

つまり、課題そのものは繰り返しています。

一方で、

その課題を達成するために身体が使っている方法は、毎回完全に同じではありません。

その都度少しずつ異なる身体の状態や環境の中で、目的を達成するための運動を作っています。

言い換えるなら、

「同じ動作をコピーする」のではなく、「同じ課題を何度も解決している」

とも考えられます。


エコロジカル・ダイナミクスという考え方

こうした考え方と関連する理論的枠組みとして、近年スポーツや運動学習の分野で注目されているのがEcological Dynamics(エコロジカル・ダイナミクス)です。

エコロジカル・ダイナミクスでは、人間の動作を身体だけから考えるのではなく、

個人・課題・環境の相互作用

から捉えます。

個人・課題・環境の相互作用から動作が生まれることを示す模式図。個人、課題、環境の3要素が相互に影響し、その場に適した動作が生まれることを表している。
運動は、個人・課題・環境という3つの要素の相互作用から生まれる。Ecological DynamicsおよびConstraints-Led Approachの考え方をもとに、作成した模式図。

例えば同じスクワットでも、

個人

  • 身長
  • 手脚の長さ
  • 筋力
  • 関節の可動性
  • 運動経験
  • その日の身体の状態

課題

  • 使用する重量
  • しゃがむ深さ
  • 動作速度
  • 回数
  • 重りを持つ位置

環境

  • 使用する器具
  • 足元
  • 周囲のスペース
  • 視覚的な情報

などが変われば、自然に生まれる動作も変わります。

つまり、

人の身体の中に一つの正解フォームを作り、それをいつでも再生する

という考え方ではなく、

その時の状況に応じて適切な動きを作る

という視点が重要ということです。


Constraints-Led Approach(制約主導アプローチ)とは?

この考え方を実際の運動指導へ応用する方法として、Constraints-Led Approach(コンストレインツ・レッド・アプローチ)があります。(以下CLAと表記)

Constraintは「制約」や「条件」という意味です。

CLAの考え方は、

トレーナーが身体の動きを口頭で細かく指示することだけに頼るのではなく、

課題”や”環境”の条件を変えることで、望ましい動きを自然に引き出す

といった指導方法です。

例えばスクワットで、

「もっとお尻を後ろに引いてください」

と何度も口頭で指示する方法もあります。

一方で、

  • 後ろにボックスを置く
  • 重りを身体の前に持つ
  • 足幅を変える
  • しゃがむ深さを設定する
  • 動作速度を変える

などの方法でも、身体の動きは変わります。

トレーナーが身体の動きを口頭で指示するのではなく、

目的とする動きが生まれやすい”課題”を設定する。
目的とする動きが生まれやすい”環境”を設定する。

という指導方法が求められているのです。


Differential Learningとは?

もう一つ、運動学習における変動を積極的に利用する方法としてDifferential Learning(ディファレンシャルラーニング)があります。

Differential Learningでは、

毎回まったく同じ条件で運動を反復するのではなく、練習の中に意図的な変化を加えます。

例えばスクワットなら、

  • 足幅を変える
  • つま先の向きを変える
  • 重りの位置を変える
  • 動作速度を変える
  • 深さを変える

といった方法が考えられます。

その中で自身の身体がさまざまな運動を経験し、課題に対する解決方法を探索していきます。(自己組織化)


動作で安定させる部分と、変化してよい部分

ここでもう一度、鍛冶職人のハンマー動作を思い出してみましょう。

身体の各関節の動きには変動がありました。

一方で、ハンマーを目的の場所へ振り下ろすという重要な結果は安定しています。

ここから一つ、新しい疑問が生まれます。

動作の中で、何を安定させ、何には変化を許してよいのでしょうか?

この問題を考える際に関係する概念の一つが、

アトラクター(Attractor)

です。

アトラクターとは、簡単に言えば、さまざまな変化が起きても比較的安定して現れやすい動作パターンや状態のことです。

一方、トレーニングやコーチングの文脈では、状況に応じて変化する要素をフラクチュエーターとして整理することがあります。

何でも自由に変化させればよいわけではありません。

むしろ重要なのは、

何を安定させ、何に自由度を残すのか

を考えることです。

この「アトラクターとフラクチュエーター」については、別の記事で詳しく解説します。

【近日公開予定:アトラクターとフラクチュエーターとは?動作の安定性と変動性を考える】


「正しいフォーム」ではなく、その人に適した動きを考える

トレーニングには、安全性や目的を考えるうえで重要な基本があります。

そのため、

「人それぞれだから、どんなフォームでもいい」

というわけではありません。

しかし、

  • 身長
  • 骨格
  • 関節の可動性
  • 筋力
  • 運動経験
  • 目的
  • 使用する重量
  • 現在の身体の状態

が異なれば、すべての人がまったく同じフォームになる必要もありません。

大切なのは、

一つの理想的な形に身体を合わせることではなく、その人が目的を達成するために適した動きを考えること

です。


まとめ|「フォームを教えること」よりも大切なこと

パーソナルトレーナーというと、

「スクワットの正しいフォームを教える人」

というイメージを持たれることがあります。

もちろん、フォームを見ることは重要です。

しかし、それだけでは十分ではありません。

目の前の人の動きを観察し、

なぜ現在そのような動きになっているのか。

そして、

どのような課題や環境を設定すると、別の動きが生まれるのか。

を考えることもトレーニング指導の一部です。

同じ運動でも、

細かくフォームを説明した方がよい人もいます。

課題そのものを変えた方がよい人もいます。

同じ動作を反復する時期もあれば、意図的に条件を変えた方がよい場合もあります。

だからこそ、

「このフォームが唯一の正解」

と一つの方法をすべての人に当てはめるのではなく、その人の身体と目的を見ながらトレーニングを組み立てる必要があります。

α Personal Training LABでは非線形運動学習理論やエコロジカル・ダイナミクスなどに基づいたコーチングを採用しています。


今、トレーナーに求められているのは「何を教えるか」よりも「何を伝えないのか」なのかもしれません。



この記事を書いた人

丹下 翔太

・ボディメイク・姿勢改善・リハビリ・スポーツパフォーマンス指導

・α Personal Training LAB 代表

・NSCA認定パーソナルトレーナー

・AZCARE Master Provider

・Synthesis認定ピラティス

・BPA認定パフォーマンススペシャリスト

α Personal Training LAB代表 丹下翔太

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参考文献

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