肩の痛みと肋骨・胸郭・肩関節の関係を示したアイキャッチ画像

肩の痛みは肩だけが原因ではない?肋骨・胸郭のポジションと肩関節の関係

「腕を上げると肩が痛い」

「ベンチプレスやショルダープレスをすると肩の前側が気になる」

「肩をストレッチしているのに、なかなか動きが良くならない」

このような場合、多くの方はまず「肩そのもの」に原因があると考えるのではないでしょうか。

もちろん、腱板や関節包、筋肉など、肩周囲の組織を確認することは大切です。

しかし、肩は肩だけで動いているわけではありません。

α Personal Training LABでは肩の動きを見るとき、肩関節だけでなく、肩甲骨・胸郭・肋骨・脊柱、そして体幹全体の使い方まで確認します。

なぜなら、肩甲骨は肋骨でできた胸郭の上を動いており、その「土台」の状態によって肩の動き方も変化するからです。

今回は、

「なぜ肋骨や体幹のポジションが肩に影響するのか?」

「肩が痛いとき、なぜ肩だけを見ないのか?」

について、できるだけ分かりやすく解説します。

肩甲骨は「肋骨の上」を動いている

まず知っていただきたいのが、肩甲骨と胸郭の関係です。

肩甲骨は背中に固定されている骨ではありません。

肋骨で構成された胸郭のカーブに沿って、滑るように動いています。

腕を頭の上まで上げるときも、上腕骨だけが動いているわけではありません。

肩甲骨も、

・上方回旋
・後傾
・外旋

などの三次元的な動きを組み合わせながら、腕が上がりやすい方向へ変化していきます。

実際、腕を挙上していくにつれて肩甲骨は上方回旋し、前傾位から後傾方向へ変化していくことが報告されています[1]。

つまり、肩をスムーズに動かすためには、

上腕骨が動くだけでなく、その受け皿となる肩甲骨も適切に動けること

が重要です。

肩甲骨が肋骨の上で上方回旋・後傾しながら動く仕組みを示した図
肩甲骨は肋骨のカーブに沿って動きます。そのため、肩甲骨が乗っている胸郭の位置も肩の動きに関係します。

肩甲骨の「土台」である胸郭が変わると、肩の動きも変わる

では、その肩甲骨が乗っている胸郭の位置が変わったらどうなるでしょうか。

肩甲骨そのものに大きな問題がなくても、土台となる胸郭の向きが変化すれば、肩甲骨のスタート位置や動き方も変わる可能性があります。

Kebaetseらは、身体を起こした姿勢と、背中を丸めた姿勢で腕を上げたときの肩甲骨運動を比較しています。

その結果、背中を丸めた姿勢では、腕を高く上げた際の肩甲骨の後傾が少なくなり、肩の最大可動域も低下しました[2]。

また、胸椎の姿勢を変えることで、肩を挙上した際の肩甲骨の外旋や前後傾などが変化することも報告されています[3]。

ここで重要なのは、

「良い姿勢・悪い姿勢」を単純に決めることではありません。

胸郭の位置によって、肩甲骨が動く環境そのものが変わる可能性がある、ということです。

腕が上がっていても「肩が十分に動いている」とは限らない

トレーニング現場でよく見られるのが、

腕を頭上へ上げようとすると、同時に腰が大きく反る

という動きです。

このとき、

・腰椎が大きく伸展する
・胸郭全体が後方へ傾く
・下部肋骨が前方へ突出する
・下部肋骨が前外方へ開いたようなポジションになる

といった動きが同時に起こることがあります。

一般的には、この下部肋骨が前方へ突出したような状態を「リブフレア」と表現することもあります。

ただし、リブフレアがあること自体を「悪い」と判断するわけではありません。

大切なのは、

「なぜその動きが起こっているのか?」

を見ることです。

例えば、

肩関節や肩甲骨だけでは十分に腕を挙げられない

腰を反る

胸郭全体を後方へ傾ける

結果として腕が頭上まで上がったように見える

という代償が起こることがあります。

見た目では腕が180度近く上がっていても、すべての可動域が肩から生まれているとは限りません。

そのため当店では、

「腕が上がるか」だけでなく、「どこを使って腕を上げているか」

まで確認します。

腕を上げる際の肩甲骨の動きと、下部肋骨の前方突出・腰椎過伸展による代償動作を比較した図
見た目では同じように腕が上がっていても、下部肋骨の前方突出や腰椎の過伸展など体幹の使い方によって、肩に求められる動きや負担は変わります。

肋骨のポジションが、なぜ肩関節に影響するのか

ここから少しだけ専門的な話をします。

肩関節の中心となる「肩甲上腕関節」は、肩甲骨にある関節窩という受け皿と、上腕骨頭という丸い骨によって構成されています。

腕を上げるとき、上腕骨頭はその場で単純に回転しているだけではありません。

回転に伴って、関節窩の上でわずかな「滑り」や「移動」が生じています。

この移動をtranslation(並進)と呼びます。

Harrymanらの研究では、肩関節の受動的な運動に伴って上腕骨頭に一定の並進が生じることや、関節包の状態を変化させることで、その並進の方向や量が変化することが示されています[4]。

このように肩関節は、

上腕骨頭が関節窩の中で適切に回転・移動しながら大きな可動域を作る関節

です。

そして、その関節窩の向きを決めているのが肩甲骨です。

つまり、

胸郭の位置が変わる

肩甲骨の位置や動く環境が変わる

関節窩と上腕骨の位置関係も変化する

肩関節に求められる運動や筋によるコントロールも変わる

という関係が考えられます。

ただし、

「肋骨が開くと上腕骨頭が必ずこの方向へ移動する」

あるいは、

「肋骨が開いているから肩が痛い」

と一直線に考えることはできません。

肩の痛みは、それほど単純ではないからです。

肩の痛みは、関節や筋肉などの局所的な要因だけでなく、過去の痛みの経験やストレス、睡眠、脳による痛みの処理など、さまざまな要因によって変化します。
痛みそのものがどのように生じるのかについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

「痛みとは何か?慢性痛が生じる仕組みについてはこちらの記事で詳しく解説しています」

肩峰下スペースとは?

肩の痛みを考えるうえで、よく登場するのが「肩峰下スペース」です。

肩甲骨の一部には「肩峰」と呼ばれる骨があります。

その下には上腕骨頭があり、その間には腱板や肩峰下滑液包などの組織があります。

この肩峰周辺と上腕骨頭との間にある空間を、一般的に肩峰下スペースとして説明することがあります。

肩甲骨が腕の挙上に合わせて上方回旋や後傾をすることは、上腕骨との位置関係を変化させる要素の一つです。

そのため、胸郭や肩甲骨の位置・運動が変化すれば、肩前上方の組織が置かれる力学的な環境も変化する可能性があります。

肩峰下スペースと肩甲骨・上腕骨頭の位置関係を比較した模式図
肩峰下スペースを模式的に示した図です。肩甲骨や上腕骨頭の位置関係によって肩前上方の力学的環境は変化しますが、実際の肩の痛みはスペースの広さだけで決まるものではありません。

「インピンジメント=腱が骨に挟まる」だけではない

以前は、腕を上げたときに生じる肩の痛みについて、

「肩峰と上腕骨の間で腱板が挟まる」

という「インピンジメント」の説明が広く使われていました。

しかし現在では、肩の痛みを単純な物理的な「挟まり」だけで説明することは難しいと考えられています。

2026年に更新されたガイドラインでも、腕の挙上時に痛みを伴う非外傷性の肩症状について「Subacromial Pain Syndrome(肩峰下疼痛症候群)」という枠組みが用いられています[5]。

また、肩に症状のある人全員に共通する「異常な肩甲骨の位置」が存在するわけでもありません。

2025年のシステマティックレビューでは、肩に症状のない人でも肩甲骨運動にはかなりの個人差があり、腱板関連肩痛がある人についても、単一の異常パターンを定義することは難しいと報告されています[6]。

つまり、

「肩甲骨がこの位置だから痛い」

「肋骨が開いているから痛い」

という一つの要素だけで判断するのではなく、複数の要因を合わせて考える必要があります。

では、α Personal Training LABでは何を見るのか?

肩に違和感があるからといって、最初から肩だけをストレッチしたり、肩周囲の筋肉だけを鍛えたりするとは限りません。

まず、

・肩関節そのものの可動域
・肩甲骨の動き
・胸郭の位置と動き
・腕を上げたときの腰椎の動き
・下部肋骨の動き
・呼吸
・体幹のコントロール
・左右差
・どの動作で症状が出るのか

などを確認します。

例えば、

腕を上げる

下部肋骨が大きく前方へ突出する

腰椎が過度に伸展する

それでも肩の動きには制限が残っている

というケースであれば、肩だけではなく、胸郭や体幹を含めてアプローチすることがあります。

アプローチ例① 呼吸と体幹から胸郭の位置を考える

一例として、仰向けで呼吸を行いながら、下部肋骨や胸郭の動きを確認します。

目的は「肋骨を無理やり締める」ことではありません。

息を吐いたときに腹部を使いながら、過度に前方へ突出していた下部肋骨が動けるかを確認し、

胸郭の位置を自分でコントロールできる選択肢を増やす

ことが目的です。

アプローチ例② 肩甲骨が動きやすい環境をつくる

次に、ウォールスライドやリーチ動作などを利用して、

・肩甲骨の上方回旋
・後傾
・外旋

といった動きを引き出していきます。

ここでも「肩甲骨をこの位置に固定する」ことが目的ではありません。

腕の動きに合わせて、

肩甲骨が必要な方向へ動けること

を重視します。

アプローチ例③ 肩関節の動きを再学習する

胸郭や肩甲骨の動きを確認したら、最終的には実際に腕を上げる動作へ戻していきます。

痛みの少ない範囲から少しずつ負荷を加え、

「腰を大きく反らなくても腕を上げられる」

「肩だけに力を集中させずに動かせる」

といった動作を練習していきます。

呼吸と体幹、肩甲骨のコントロール、肩関節の再学習という肩への3段階アプローチを示した図
肩に違和感がある場合でも、肩だけにアプローチするとは限りません。呼吸や胸郭の位置、肩甲骨の動き、肩関節の挙上動作を段階的に確認しながら、その人に必要な運動を選択します。

アプローチによって何を目指しているのか?

重要なのは、

「肋骨をこの形にすれば肩峰下スペースが広がる」

ということではありません。

また、

「正しい姿勢を作れば肩の痛みがなくなる」

ということでもありません。

目指しているのは、

・腰椎だけで動きを代償しなくてもよい
・胸郭を必要に応じて動かせる
・肩甲骨が腕の動きに合わせて動ける
・上腕骨を肩甲骨に対してコントロールできる

というように、身体が使える動きの選択肢を増やすことです。

その結果として、肩関節の一部分に負担が集中しにくい動作を獲得できる可能性があります。

下部肋骨の前方突出や腰椎過伸展が強い挙上と、胸郭・肩甲骨の協調が改善した挙上を比較した図
模式的な比較図です。呼吸・胸郭・肩甲骨・肩関節の協調が整うことで、肩に負担が集中しにくい動作を目指します。特定の姿勢にすれば必ず痛みが改善する、という意味ではありません。

肩の痛みの原因は、肩だけとは限りません

身体の関節は、それぞれが完全に独立して動いているわけではありません。

特に肩は、

上腕骨―肩甲骨―鎖骨―胸郭―脊柱

といった複数の部位が協調することで、大きな可動域を実現しています。

そのため肩に痛みや違和感がある場合でも、

「肩の筋肉が硬いから」

「肩甲骨がズレているから」

「肋骨が開いているから」

と一部分だけを見て判断することはできません。

大切なのは、

「なぜ今、その身体の使い方になっているのか?」

を一つずつ確認することです。

α Personal Training LABでは、痛みや違和感のある場所だけを見るのではなく、姿勢・関節可動域・動作・身体の使い方を確認したうえで、その方に必要なトレーニングを考えていきます。

自分のカラダを知ることから、トレーニングは始まる。

肩に不安がある方も、まずは自分の身体がどのように動いているのかを知ることから始めてみてください。

この記事を書いた人

丹下 翔太

・ボディメイク・姿勢改善・リハビリ・スポーツパフォーマンス指導

・α Personal Training LAB 代表

・NSCA認定パーソナルトレーナー

・AZCARE Master Provider

・Synthesis認定ピラティス

・BPA認定パフォーマンススペシャリスト

α Personal Training LAB代表 丹下翔太

店舗情報

α Personal Training LAB

〒604-8136
京都府京都市中京区梅忠町20-1
烏丸アネックス3F

営業時間

  • 平日10:00〜22:00
  • 土日10:00〜19:00
  • 定休日 毎週火曜日

参考文献

[1]Ludewig PM, Cook TM, Nawoczenski DA. Three-dimensional scapular orientation and muscle activity at selected positions of humeral elevation. J Orthop Sports Phys Ther. 1996;24(2):57-65. doi:10.2519/jospt.1996.24.2.57.

[2]Kebaetse M, McClure P, Pratt NA. Thoracic position effect on shoulder range of motion, strength, and three-dimensional scapular kinematics. Arch Phys Med Rehabil. 1999;80(8):945-950. doi:10.1016/S0003-9993(99)90088-6.

[3]Yabata K, Fukui T. Characteristics of the scapula movement during shoulder elevation depend on posture. J Phys Ther Sci. 2022;34(7):478-484. doi:10.1589/jpts.34.478.

[4]Harryman DT II, Sidles JA, Clark JM, McQuade KJ, Gibb TD, Matsen FA III. Translation of the humeral head on the glenoid with passive glenohumeral motion. J Bone Joint Surg Am. 1990;72(9):1334-1343.

[5]Lambers Heerspink FO, et al. Update of guideline for diagnosis and treatment of subacromial pain syndrome: a multidisciplinary review by the Dutch Orthopedic Association. Part 1: preventive measures, diagnostics, and non-surgical treatment of subacromial pain syndrome. Acta Orthop. 2026;97:91-98. doi:10.2340/17453674.2026.45365.

[6]Fernández-Matías R, Ballesteros-Frutos J, Gallardo-Zamora P, et al. Scapular kinematics variability in individuals with and without rotator cuff-related shoulder pain: A systematic review with multilevel meta-regression. Braz J Phys Ther. 2025;29(6):101261. doi:10.1016/j.bjpt.2025.101261.

※本記事は、肩関節や身体運動に関する一般的な情報提供を目的としたもので、個別の疾患の診断・治療を目的とするものではありません。強い痛み、外傷後の症状、安静時や夜間の強い痛み、著しい筋力低下、しびれなどがある場合は、医療機関へご相談ください。