「体幹を鍛えるためにプランクをしている」
「腰痛予防のために腹筋を鍛えている」
このような方は多いのではないでしょうか。
プランクや腹筋運動は、体幹の筋肉を鍛える代表的なトレーニングです。
しかし、体幹を安定させるためには、筋肉を強くすることだけでなく、必要なタイミングで適切に筋肉を働かせることも重要です。
今回は、体幹の筋力と安定性の違い、そして身体が動く前から姿勢を調節する「予測的姿勢調節(APA)」について、研究を交えながらわかりやすく解説します。
目次
体幹トレーニングは腹筋を鍛えるだけで十分?
体幹トレーニングとしてよく知られているのが、プランクやクランチ(腹筋運動)です。
プランクでは一定の姿勢を保持し、クランチでは主に腹部の筋肉を収縮させます。
どちらも筋力や筋持久力を高めるために活用できるトレーニングですが、日常生活やスポーツでは、姿勢を保持する能力だけでなく、動きに応じて身体を安定させる能力も求められます。
例えば、次のような動作です。
- 歩く、走る
- 腕を素早く持ち上げる
- 片脚で立つ
- 重い物を持ち上げる
- スポーツで急に方向を変える
こうした動作では、手足の動きや外部から加わる力に合わせて、体幹の筋肉が活動を調整しています。
つまり、体幹トレーニングでは、筋力を高めることと、その筋力を動作の中で適切に発揮することの両方を考える必要があります。
体幹の安定性を決めるのは筋力だけではない
筋肉の強さを考える際、筋肉量や筋断面積が注目されることがあります。
筋肉の生理学的断面積は、その筋肉が発揮できる力の大きさに関係する重要な要素です。
しかし、筋肉が大きいことと、必要なタイミングで適切に働くことは同じではありません。
体幹の安定性には、腹直筋や腹斜筋のような比較的大きな筋肉に加え、腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋群なども関わっています。
そして、これらの筋肉がどのタイミングで、どの程度活動するかを調整しているのが神経系です。
このように、神経系が筋肉の活動を調節する働きを「神経筋制御」と呼びます。
身体を安定させるために大切なのは、単に強い力を発揮することだけではありません。
必要なときに、必要な筋肉が、適切な強さで働くこと。
これも体幹の重要な機能の一つです。
こうした考え方は、姿勢改善にも共通します。詳しくは、姿勢が悪くなる原因とは?腹筋・背筋だけでは改善しない理由でも解説しています。

身体が動く前に体幹は働いている|APAとは?
ここで重要になるのが、予測的姿勢調節(Anticipatory Postural Adjustments:APA)です。
APAとは、自分自身の動作によって生じる姿勢への影響を予測し、動作の開始前や開始に伴って姿勢を調節する仕組みです。
例えば、立った状態で腕を素早く前に持ち上げる場面を想像してください。
腕が動くと、その反作用によって体幹にも力が加わります。
身体が何も準備していなければ、姿勢が乱れやすくなる可能性があります。
しかし、私たちの神経系には、これから起こる動きに備えて、姿勢を事前に調整する仕組みがあります。
つまり、腕が動いてから体幹が反応するだけでなく、腕の動きに先行して体幹の筋肉が活動することがあるのです。
研究では筋活動のタイミングが確認されている
Hodgesらが1997年に発表した研究では、立った状態から腕を素早く持ち上げる際の横隔膜や腹横筋の活動が調べられました。
その結果、横隔膜の筋電活動は、肩を動かす三角筋の筋電活動よりも約20ミリ秒早く始まり、腹横筋とほぼ同時に活動を開始したと報告されています。
20ミリ秒は、わずか0.02秒です。
この結果は、横隔膜が呼吸だけではなく、手足の動きに伴う姿勢調節にも関わることを示しています。
参考:Hodgesら(1997)横隔膜と予測的姿勢調節に関する研究
ただし、すべての動作で腹横筋や横隔膜が必ず最初に活動するわけではありません。活動の順序やタイミングは、動作や姿勢などの条件によって変化します。

APAと反射的な姿勢制御は異なる
姿勢を安定させる仕組みには、APAのほかに、予測していなかった外乱に対して反応する姿勢制御もあります。
例えば、腕を自分で持ち上げるときは、その動作を予測して姿勢を準備できます。
一方、不意に身体を押された場合には、加わった力に応じた反応が必要になります。
前者は予測的な調節、後者は反応的な調節が中心になります。
どちらも姿勢の安定に関わりますが、同じ仕組みではありません。
腰痛と体幹の筋活動タイミングの関係
APAは、腰痛との関係でも研究されています。
HodgesとRichardsonによる1996年の研究では、腰痛のある人で、腕を動かす際の腹横筋の活動開始が遅れる傾向が報告されました。
参考:Hodges & Richardson(1996)腰痛と腰椎安定化に関する研究
さらに2018年に発表されたシステマティックレビューとメタアナリシスでは、慢性腰痛のある人において、予測的姿勢調節に関わる筋活動の開始が遅れる傾向が示されています。
参考:Knoxら(2018)腰痛と予測的・代償的姿勢調節のシステマティックレビュー
ただし、ここで注意したいことがあります。
筋活動のタイミングが遅れることと、それが腰痛の直接的な原因であることは同じではありません。
痛みによって筋活動が変化する可能性もあり、筋活動の遅れを修正すれば必ず腰痛が改善するとは限りません。
腰痛には、身体的な要因だけでなく、生活習慣や心理社会的な要因なども関係しています。
そのため、特定の筋肉の活動タイミングだけに注目するのではなく、身体の状態を総合的に確認することが大切です。
体幹トレーニングは「止める」だけでなく「動きながら安定させる」
ここまで、筋力と神経筋制御の違いや、APAの仕組みについて解説しました。
では、実際のトレーニングでは何をすればよいのでしょうか。
プランクのように姿勢を維持するトレーニングは、体幹の筋力や筋持久力を高めるために活用できます。
一方、実際の動作では、手足を動かしながら体幹を安定させたり、外部からの負荷に対応したりする必要があります。
そこで、四肢の動きや負荷の変化に合わせて体幹をコントロールするエクササイズも選択肢になります。
ここからは、その具体例を紹介します。
なお、以下のエクササイズは動作中の体幹のコントロールを練習するためのものであり、APAの筋活動開始時間を直接改善する効果が確認されているという意味ではありません。
動作中の体幹の安定性を高めるエクササイズ
① バードドッグ|手足の動きに合わせて体幹を安定させる
バードドッグは、四つ這いの姿勢から対角の手足を伸ばすエクササイズです。
手足を動かすことで支持する部分が変化し、体幹や骨盤には姿勢を乱す方向の力が加わります。
そこで重要になるのが、手足の動きに合わせて身体をコントロールすることです。
このエクササイズで意識したいこと
- 手足を動かしても骨盤が大きく傾かないようにする
- 腰を過度に反らさずに動作を行う
- 手足の動きと体幹の安定を両立させる
バードドッグでは、手足の動きによって生じる姿勢の変化に対応しながら体幹を安定させます。動作の大きさよりも、無理なく姿勢をコントロールできる範囲で行うことが重要です。
② デッドバグ|四肢の動きに対する腰椎・骨盤のコントロール
デッドバグは、仰向けの姿勢から手足を動かすエクササイズです。
手足を伸ばすことで腰椎や骨盤に加わる力が変化するため、体幹の姿勢を調整しながら動作を行います。
立った姿勢よりも支持面が広く、比較的安定した環境で運動を行えることも特徴です。
このエクササイズで意識したいこと
- 手足を動かしても腰が過度に反らないようにする
- 動作中も自然な呼吸を続ける
- コントロールできる範囲で手足を動かす
デッドバグでは、手足の動きによる負荷の変化に対して、腰椎や骨盤の位置をコントロールすることが求められます。動作中に呼吸を止め続ける必要はありません。
③ パロフプレス|回旋方向の負荷に対応する
パロフプレスは、チューブやケーブルを身体の横から引き、体幹が回旋しないように抵抗するエクササイズです。
腕を前方へ伸ばすことで、体幹を回旋させようとする力が変化します。
そのため、動作に合わせて体幹の筋活動を調整し、姿勢を保つことが求められます。
このエクササイズで意識したいこと
- 身体が横に引かれて回旋しないようにする
- 肩や腕だけでなく、体幹と骨盤の位置にも注意する
- 無理に重い負荷を使用せず、コントロールできる強度で行う
パロフプレスは、外部から加わる回旋方向の負荷に対して姿勢を保持するエクササイズです。腕を伸ばす際の負荷の変化に合わせて、体幹をコントロールします。
これらのエクササイズで何を狙っているのか?
今回紹介した3つのエクササイズには共通点があります。
それは、手足の動きや外部からの力に合わせて、体幹を安定させることです。
プランクでは、一定の姿勢を維持することが主な課題になります。
一方、バードドッグやデッドバグでは手足の動きが加わり、パロフプレスでは外部からの抵抗が加わります。
このように運動の課題を変えることで、異なる条件で体幹をコントロールする練習ができます。
ただし、静的な運動と動的な運動のどちらか一方が優れているというわけではありません。
目的に応じて、必要な能力を段階的にトレーニングすることが重要です。
α Personal Training LABでは、必要に応じて仰向けなどの安定した姿勢からエクササイズを始め、段階的に負荷や動作の複雑さを変えることがあります。
その考え方については、なぜα Personal Training LABでは「寝た姿勢」からトレーニングを始めるのか?でも詳しく解説しています。
体幹の安定性には呼吸や運動学習も関係する
体幹の安定性を考える際には、筋力や筋活動のタイミングだけでなく、呼吸や運動学習にも目を向ける必要があります。
呼吸と体幹の安定性
横隔膜は呼吸に重要な筋肉ですが、先ほど紹介した研究のように、姿勢調節にも関係しています。
呼吸に伴って横隔膜や胸郭が動くため、身体はその変化にも対応しながら姿勢を保っています。
つまり、体幹を安定させるために、常に呼吸を止めて強く固めればよいわけではありません。
運動の強度や目的に応じて、呼吸と体幹の活動を調整することが重要です。
詳しくは、呼吸が乱れると身体は安定しにくい?トレーニング前に呼吸を確認する理由をご覧ください。
運動を繰り返すことと動作の学習
動作中の体幹のコントロールを考える際には、運動学習の視点も重要です。
同じエクササイズを繰り返すことで、その動作に慣れることはあります。
しかし、特定のエクササイズが上達したからといって、すべての日常動作やスポーツ動作が自動的に改善するとは限りません。
必要に応じて、姿勢、負荷、動作の速さなどの条件を変えながらトレーニングすることも大切です。
運動学習については、反復練習は本当に必要?動作改善と「正しいフォーム」を運動学習から考えるでも解説しています。
また、ウエイトトレーニングの前に身体の動きを確認する方法については、ウエイトトレーニング前にピラティスを取り入れるメリットも参考にしてください。
まとめ|体幹は「鍛える」と「コントロールする」の両方が大切
体幹トレーニングというと、腹筋を強くすることやプランクを長く維持することが注目されがちです。
しかし、実際の身体の動きでは、筋力だけでなく、神経系による筋活動の調節も重要な役割を担っています。
特に、予測的姿勢調節(APA)の研究からは、手足が動く前から体幹に関わる筋肉が活動し、姿勢の安定に寄与する仕組みがあることがわかっています。
体幹トレーニングでは、次のような視点を持つことが大切です。
- 筋力や筋持久力を高める
- 必要なタイミングで筋肉を働かせる
- 手足の動きに合わせて体幹をコントロールする
- 外部から加わる力に対応する
- 呼吸や動作との協調性を考える
どの能力を優先してトレーニングするかは、身体の状態や目的によって異なります。
京都・烏丸御池のパーソナルジム「α Personal Training LAB」では、筋力だけでなく、関節の動きや姿勢、動作のコントロールなども確認し、一人ひとりの目的に合わせたトレーニングをご提案しています。
体幹の使い方やトレーニング方法にお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
α Personal Training LABのパーソナルトレーニングについて詳しく見る
この記事を書いた人
丹下 翔太
・ボディメイク・姿勢改善・リハビリ・スポーツパフォーマンス指導
・α Personal Training LAB 代表
・NSCA認定パーソナルトレーナー
・AZCARE Master Provider
・Synthesis認定ピラティス
・BPA認定パフォーマンススペシャリスト

店舗情報
α Personal Training LAB
〒604-8136
京都府京都市中京区梅忠町20-1
烏丸アネックス3F
営業時間
- 平日10:00〜22:00
- 土日10:00〜19:00
- 定休日 毎週火曜日
参考文献
- Hodges PW, Butler JE, McKenzie DK, Gandevia SC. (1997). Contraction of the human diaphragm during rapid postural adjustments. The Journal of Physiology, 505(2), 539–548.
- Hodges PW, Richardson CA. (1996). Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain. Spine, 21(22), 2640–2650.
- Knox MF, Chipchase LS, Schabrun SM, Romero RJ, Marshall PWM. (2018). Anticipatory and compensatory postural adjustments in people with low back pain: a systematic review and meta-analysis. The Spine Journal, 18(10), 1934–1949.