腰痛を予防するために、腹筋や背筋を鍛える。硬くなった腰の筋肉をストレッチする。
こうした方法は広く知られており、筋力や柔軟性を改善することは、腰痛対策において大切な要素です。
しかし、筋力や柔軟性が十分にあれば、腰痛を繰り返さなくなるのでしょうか。
実は、腰痛を考えるうえでは、筋肉をどれだけ鍛えるかだけでなく、筋肉をどのように使っているかという視点も重要です。
研究では、腰痛のある人では、同じ動作を繰り返す際に腰の筋肉の使い方が変化しにくい場合があることが報告されています。
今回は、腰痛と筋肉の使い方の関係について研究をもとに解説し、α Personal Training LABが大切にしている「動作の多様性」という考え方をご紹介します。
目次
1. 腰痛を繰り返す人は、同じ筋肉ばかり使っている?
腰の筋肉は、いつも同じ部分が働いているわけではない
私たちの腰には、背骨を支えたり、身体を動かしたりするための筋肉がいくつもあります。
そして、一つの筋肉の中にもたくさんの筋繊維があり、すべてが常に同じように働いているわけではありません。
例えば、床にある荷物を何度も持ち上げる場面を想像してみてください。
同じ動きを繰り返していても、腰の筋肉は活動する部分を少しずつ変えることがあります。
これは、同じ仕事をいつも同じ人だけが担当するのではなく、複数の人で分担するようなイメージです。
ところが、腰痛がある人では、このような筋肉の使い分けが起こりにくい場合があることが研究で報告されています。
腰痛がある人では、筋肉の使い方が変わりにくい?
Fallaら(2014)は、腰痛のある人とない人に、繰り返し荷物を持ち上げる動作を行ってもらい、腰の筋肉の働き方を比較しました。
この研究では、特殊な筋電図を使い、腰の筋肉のどの部分が強く働いているのかを調べています。
その結果、腰痛のない人では、動作を繰り返す中で腰の筋肉の活動する部分が変化しました。
一方、腰痛のある人では、筋肉全体の活動量が増えているにもかかわらず、活動する部分に大きな変化が見られませんでした。
つまり、腰痛のある人では、同じ動作を繰り返す際に、筋肉の同じ部分を使い続ける傾向が見られたということです。

腰痛のない人では、同じ動作を繰り返す中で筋肉の活動する部分が変化する一方、腰痛のある人では、同じ部分が働き続ける傾向が報告されています。
出典:Falla et al.(2014)を参考に作成。
同じ部分ばかり使うと、なぜ腰に負担がかかるのか?
例えば、何人もいる職場で、いつも同じ人だけが仕事を担当していたらどうでしょうか。
その人には疲労がたまりやすくなります。
筋肉も同じように考えることができます。
特定の部分ばかりが繰り返し働いていると、その部分に負担が集中しやすくなる可能性があります。
反対に、活動する部分を変えられれば、一部の筋肉に負担が集中し続けることを避けられるかもしれません。
こうした筋肉の使い方の違いは、腰の疲労や痛みを考えるうえで重要な視点の一つです。
もちろん、腰痛の原因は一つではなく、筋肉の使い方だけですべてを説明できるわけではありません。
しかし、筋肉をどれだけ鍛えるかだけでなく、筋肉をどのように使い分けられるかにも目を向ける必要があると考えています。
2. 腰痛対策には、筋肉の使い方を増やすことも大切
筋肉を鍛えるだけではなく、使い方を覚える
腰痛対策として、腹筋や背筋を鍛えたり、硬くなった筋肉をストレッチしたりすることは大切です。
しかし、筋肉が強くなったとしても、いつも同じ部分ばかり使っているのであれば、負担のかかり方は変わらないかもしれません。
そこで重要になるのが、「動作の多様性」という考え方です。
少し難しい言葉ですが、簡単に言えば、同じ動きでも、状況に合わせて身体の使い方を変えられることです。
例えば、床に置いた荷物を持ち上げる動作でも、荷物の重さや大きさ、持つ位置が変われば、身体にかかる負担も変わります。
こうした変化に合わせて、身体の使い方を調整できることが大切です。
また、体幹の安定には、筋力だけでなく、筋肉が働くタイミングや身体のコントロールも関係しています。
詳しくは、体幹トレーニングは筋力だけでは不十分?体幹を安定させる神経の働きとは でも解説しています。
同じトレーニングでも、少し条件を変えてみる
α Personal Training LABでは、一つの動作を覚えたら、いつも同じ条件で繰り返すだけではなく、少しずつ条件を変えることも大切にしています。
例えば、股関節を曲げて身体を前に倒す「ヒップヒンジ」というトレーニングがあります。

この動作でも、次のような工夫ができます。
① 持つ重りや位置を変える
ダンベルやケトルベルを使用したり、重りを持つ位置を変えたりします。
重りの種類や位置が変わることで、身体にかかる負荷も変化します。
② 足の位置を変える
足幅を変えたり、片足を少し後ろに引いたりして、身体の支え方を変えます。
これにより、バランスの取り方や筋肉の働き方にも変化が生まれます。
③ 動く速さや範囲を変える
ゆっくり動いたり、途中で止めたり、動かす範囲を調整したりします。
同じヒップヒンジでも、動き方を少し変えることで、身体に求められる働きが変化します。

こうした小さな変化によって、身体に求められる筋肉の働き方も変わります。
つまり、同じような動作でも、さまざまな条件で身体を動かす経験ができるのです。
ただし、条件を変えるだけで必ず筋肉の活動する部分が増えるというわけではありません。
大切なのは、身体の状態に合わせて適切な条件を選び、少しずつ異なる動き方を経験していくことです。
一つの正しい動作だけにこだわらない
トレーニングでは、正しいフォームを身につけることが大切だとよく言われます。
もちろん、安全に身体を動かすための基本的なフォームは重要です。
しかし、日常生活では、いつも同じ重さの荷物を、同じ姿勢で持ち上げるわけではありません。
そのため、一つの動作を正確に繰り返すことだけでなく、さまざまな状況に合わせて身体の使い方を調整できることも大切です。
同じ動作を繰り返していても、身体の使い方は毎回まったく同じとは限りません。
こうした動作の変化と運動学習の関係については、反復練習は本当に必要?動作改善と「正しいフォーム」を運動学習から考える でも詳しく解説しています。
α Personal Training LABでは、筋力や柔軟性だけでなく、このような身体の使い方を学ぶことも重視しています。
筋肉を鍛えることに加えて、さまざまな動作の条件を経験することで、身体の使い方の選択肢を広げていく。
これも腰痛対策を考えるうえで、大切なアプローチの一つだと考えています。
まとめ|腰痛対策は一つの正しい動作だけではない
腰痛対策というと、腹筋や背筋を鍛えること、硬くなった筋肉をストレッチすることなどが注目されがちです。
しかし、腰痛と身体の動きの関係を考える際には、筋力や柔軟性だけでなく、筋肉をどのように使っているかという視点も重要です。
研究では、腰痛のある人では、同じ動作を繰り返す際に腰の筋肉の活動する部分が変化しにくい場合があることが報告されています。
つまり、筋肉を強くすることだけでなく、状況に応じて筋肉の使い方を変えられることにも目を向ける必要があります。
α Personal Training LABでは、筋力や柔軟性の改善に加え、負荷や環境、運動課題を変化させながら、さまざまな条件に対応できる身体づくりを大切にしています。
大切なのは、一つの正しい動作だけを繰り返すことではなく、必要に応じて身体の使い方を調整できる選択肢を持つことです。
筋力、柔軟性、そして身体の使い方。
これらを総合的に考えながら、一人ひとりの状態に合わせたトレーニングを進めることが重要だと考えています。
α Personal Training LABの身体づくりへのアプローチ
α Personal Training LABでは、筋力や柔軟性だけでなく、身体の動きや使い方を確認し、一人ひとりの状態に合わせたサポートを行っています。
パーソナルトレーニング
筋力を高めるだけでなく、身体の使い方を学び、さまざまな動作に対応できる運動能力を身につけたい方へ。
一人ひとりの身体の状態や目的に合わせて、段階的にトレーニングを進めていきます。
パーソナルストレッチ
腰まわりの張りや身体の硬さ、動かしにくさが気になる方へ。
身体の状態を確認しながら、柔軟性や動かしやすさの改善を目的としたストレッチを行います。
この記事を書いた人
丹下 翔太
・ボディメイク・姿勢改善・リハビリ・スポーツパフォーマンス指導
・α Personal Training LAB 代表
・NSCA認定パーソナルトレーナー
・AZCARE Master Provider
・Synthesis認定ピラティス
・BPA認定パフォーマンススペシャリスト

店舗情報
α Personal Training LAB
〒604-8136
京都府京都市中京区梅忠町20-1
烏丸アネックス3F
営業時間
- 平日10:00〜22:00
- 土日10:00〜19:00
- 定休日 毎週火曜日
参考文献
- Falla D, Gizzi L, Tschapek M, Erlenwein J, Petzke F. (2014). Reduced task-induced variations in the distribution of activity across back muscle regions in individuals with low back pain. Pain, 155(5), 944–953. https://doi.org/10.1016/j.pain.2014.01.027
- Abu Bakar F, et al. (2023). Not all movements are equal: Differences in the variability of trunk motor behavior between people with and without low back pain—A systematic review with descriptive synthesis. PLOS ONE, 18(9), e0286895. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0286895
- Alsubaie AM, Mazaheri M, Martinez-Valdes E, Falla D. (2023). Is movement variability altered in people with chronic non-specific low back pain? A systematic review. PLOS ONE, 18(6), e0287029. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0287029